江戸の石仏、見て歩き

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 以前、浅草を中心に向島、上野、千住、谷中界隈をよく歩きました。

 東京の下町を歩き回って感じたことですが、思っていたほどには昔の建物がありません。調べると、1923 年の関東大震災と1945年3 月10日の大空襲の二つの大惨事、さらに戦後の高度成長とバブル期を経て、江戸時代から明治、大正、昭和はじめの街並は大方、なくなっていることが分かりました。

 それでも、あちこち散策していると、古い時代の名残、雰囲気の残っている一角も僅かにあって、そんな神社仏閣を見つけると、なにかとても貴重な新発見したような気持ちになった。

 

  境内の片隅に江戸時代の石仏やお地蔵さんが並んでいる寺もあり、なんとなく気になっていた。多くは、目立たない場所に、忘れ去られたように置かれている。

 気になったというのは、素朴な作りの石仏がとても柔和な、清らかな表情をしているのに惹かれたわけです。

 写真は、ともに如意輪観音といわれる石仏で、「 半跏 」といって右脚を立て、右手を頬にあてたポーズ(これを「思惟」といってます)をしていることから半跏思惟像と呼ばれています。これらの石仏は、江戸時代の享保の頃、だいたい300 年ぐらい前に作られている。

 美術史の本を読むと、日本の仏像で高く評価されているのは、主に木造(木彫り)です。また、仏像の歴史を通観すると秀でた仏像は平安、鎌倉時代までで、江戸期は、すでに全盛期をすぎていて、型にはまった生命力の弱いものが多いといわれています。

 公(おおやけ)の評価は、こんな感じですが、こちらは門外漢ですし、我流の目からそれとは別の見方をしています。

 

 如意輪観音という石仏は、江戸時代も中頃になって、経済的な力をつけてきた町人の、特に女性の墓標として当時流行したそうです。名のある仏師がひとつひとつ作ったものではなく、無名の石工(職人)さんたちがたくさんの石仏を量産している。

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 この石仏のお顔は、よく観音様といってイメージする仏とはだいぶ違います。面長のうりざね顔、切れ長の目・・・浮世絵や錦絵の美人画を彷彿とさせる。

 そういえば、喜多川歌麿の「寛政三美人」の中のひとり、当時、江戸で一番人気だったおきたさんに鼻、眉、口元などよく似ています(上の写真は、「寛政三美人」に描かれたおきたさん。実在の女性です)。

 察するに、そんな容姿は、注文主の意向というか、好みを反映していたのかも。注文主は、貴族や武家、僧侶ではなく町民、いわば庶民でした。武士や僧侶は、身分、家柄、伝統や格式みたいなものに縛られて、そんなに自由な発想を持てなかったと思う。庶民だからこそ素直に自分たちの好みを選べたのではないでしょうか。

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  こういった背景を考えると、石仏といっても、仏教や宗教の世界からの目とはまた違った目で見ることもできるように思えます。

 石仏は、季節、季節、違った表情を見せてくれます。梅雨のころ、石仏を覆った苔が雨に濡れ深緑色に染まった姿も、真夏の夕暮れ、雑草に覆われ葉の隙間から垣間見る姿も、大寒の早朝、朝日の射した姿を拝するのも、春夏秋冬それぞれ違った姿を見せてくれます。

 博物館で鑑賞するのとは違い、気兼ねなく一人だけで間近に見れる。

 わたしは、木漏れ日の射した如意輪観音の横顔が好きです。木や銅で作られた仏像に日が当たるのとは違った、石の彫り、石の肌ならではの、沈思黙考の鎮まりに惹かれます。

 触ることもできる。彫刻って感触で感じるということもありなんですね。木陰で腰を下ろしながら眺めたりすることもできる。そんな自由さも気に入っています。

 

 ◎(最初の2枚)谷中の玉林寺・・・地下鉄「根津」駅から言問通りの坂を上る途中にある。本堂の裏手の傾斜地に樹齢700年のスダジイの古木があります。この裏手の一角は、そんなに広くはない敷地ですが、東京の中心部としては奇跡的に鬱蒼とした森が残っていました。

 石仏は、本堂裏手の傾斜地の階段に沿って並んでいます。ここに行く通路、時により閉まっていることもあり、そのときはお寺に声をかけてみてください。

 

 ◎(後の2枚)茗荷谷深光寺・・・地下鉄「茗荷谷」駅から歩いて3〜4分ほど。駅から坂を下った、ちょうど拓殖大学の正門の真向かいにあるお寺。この寺には、江戸時代のキリシタン燈籠が遺っていました。そういえばキリシタン屋敷跡もこの近く、なにか関係してたんでしょうか?。

 石仏は、寺の入り口の階段から脇に逸れた傾斜地に並んでいます。そのあたり薮(やぶ)になっていて、落ち葉や雑草の生えている土の地面で歩きづらいかもしれません。

 

 ここでとりあげた二カ所のお寺以外にも、石仏のある寺はたくさんあるので、散策してみると楽しいです。

 

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