根来椀とアイヌ文字

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 江戸初期の根来椀、高台内によく分からない図形が彫られている。それと畳付きに 7 つの刻み。文様やデザインではないように思える。

 アイヌの祭器に使われていた椀で、彫られているのはアイヌ文字と聞きました。アイヌ文字というのは通称で、一般的には北海道異体文字という言い方をしているようですが、ここでは分かりやすい通称の方を用います。       

 今から40数年前に北海道を放浪していた方から最近、譲り受けたもの。各地のアイヌの人々に援けられて旅を続けていたとのことで、そのとき祭器として使われていた椀を白老のアイヌの人から授かったものだそうです。手に持つとサラリとした感触、調子抜けするぐらい軽い不思議な重量感。

 アイヌの人々と根来椀のつながり、全く知りませんでした。ネットで検索すると、江戸時代、和人との交易で漆器を入手していたと書かかれています。このあたりの経緯は、自分で書くよりも、ちゃんとした説明文があるので、それを引用しておきます。

 

 「・・・アイヌは交易の民であるともいわれます。アイヌの物質文化には周辺諸民族の異なる文化的要素を認めることができますが、本州からもたらされた杯、椀、天目台、行器、盥、片口、湯桶などの漆器もそのひとつです。

 アイヌにとって漆器は、それ自体が神(イオイペカムイ[器の神])であり、お神酒などを入れる重要な儀礼具であると同時に、富と権威を示す宝物でもありました。・・・(略)

  現在もアイヌの家には先祖伝来の漆器を所有する家が少なくありません。使用することはなくとも、代々受け継いできた大切なものという思いが、今なお手放すことのできない理由の一つなのでしょう。・・・(略)

 イタンキ[木椀] イタンキはオハウ[汁物]やご飯などを入れるいわゆる「お椀」「(木製の)茶碗」です。供物の器として用いるほか、文様が少ないものは日常の食事用としました。」( アイヌ民族博物館[北海道白老郡白老町]の HPより引用)

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 なるほど、彫られている図形は祭事に関係していたと聞いた話し、整合性があるなと想いを巡らす。また、アイヌの人々は漆器の朱色(赤)に惹きつけられたようですね。

 さて、肝心の図形ですが、明治時代中期、学会誌に紹介されたアイヌ文字といわれる文字をまとめた表があり、見比べてみました(写真の椀の下に敷いた白抜きの記号がそれです)。

 一見して似ていることは分かりますが、対応しているとまでは言えない。いろいろあたってみましたが、アイヌ文字といわれているもの自体、地域や時代により異なっているはずで、近代的な国語のように整理され、画一的に同定できるようなものではないと思われ、簡単には解読できないと、とりあえずここでは諦めました。でも、気になるので、これからも折にふれて考えていくかと思っています。

 椀の図形とアイヌ文字について検索しているうちに、実は両者とも8世紀頃のモンゴルの突厥(とつけい)文字に似ていることに気づきました。

 突厥文字は石に刻んだ碑文が見つかっているのですが、石に彫ることから特徴として直線を組み合わせた文字が多い。文字の歴史は、書かれるようになる前に骨や石に刻んだり、彫ったりしていたんですね。椀の図形も直線の組み合わせです。

 歴史的な流れからすると、突厥(とつけい)文字が変化してアイヌ文字になったと考えるのが自然ではないか。

 8世紀、奈良時代のころの日本の北限は関東平野から仙台、新潟平野ぐらいだっといわれます。その前の時代までアイヌの人々の南限が関東平野ぐらいでした。・・・そういえば、アイヌの祖先は、縄文人ではないかと思うのですが。

 埼玉県に吉見百穴古墳というところがあります。古墳といっても砂岩に掘られた横穴で、そこに住んでいた人たちの住居跡。東武東上線東松山駅から歩いて30〜40 分ぐらい。その穴の中に神代文字が書かれていたという話しがありました(一般的には、吉見百穴文字といわれています)。

 今は、その場所は見れないのですが、戦前の絵葉書に文字の写真があります。画像検索すればすぐに見れます。

 一見して、その文字は、アイヌ文字や突厥文字と近い関係があるように思える。その横穴に人が住んでいたのは西暦500 年代末から600 年代末といわれる。結局、奈良時代より前は、アイヌ系の人々がそこに住んでいたという証拠ではないでしょうか。

 

 ざっくり言ってアイヌ文化は、紀元前、何千年かのあいだ続いた縄文文化をベースに+紀元後にオホーツク海沿岸、シベリア、モンゴルなどの文化が融合し1000 年ぐらいかけて醸成され、そして13~14世紀頃に、本州だと室町時代のころになりますが、そのころアイヌ文化として形作られた、そんなイメージになりました。

 手にした椀をもとに、こんなことをあれこれ考えてるのは、謎解きをしてるみたいな気分になってけっこう面白い。

 

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