カラタネオガタマ、スイカズラ、ブンタンの花の香り

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 4月下旬の暑い日、近所を歩いているとカラタネオガタマの花の香りがしてきた。最近、植木として、あるいは街路樹としてよく植えられている。モクレン科の灌木で、花は小振りながらモクレンに似た形をしている。

 毎年、この季節になると、とくに気温の高い日には香気が強くなり、目鼻ぐらいの高さの枝についた花の匂いをクンクン嗅いでいる。

 その香り、第一印象を言葉にすると、ラムレーズンの匂い。ラム酒の香気+スウィート、初めて匂いを嗅いだときびっくりした。植物なのに、人が作った洋菓子のような匂いなのですから。

 ラムレーズンというのは個人的な印象で、英語ではバナナツリーともいわれていて、 確かに熟れたバナナのような匂いともいえます。

 

 漢字で書くと唐種招霊といわくありげな名前。カラタネオダマは江戸時代に中国から移入されたのですが、それ以前からあった日本原産のオガタマ(招霊)が常緑樹で榊(サカキ)のように神道の祓具(お祓いの用具)であったことに由来している。

 どうしてこの木が祓具に用いられたかというと、常緑樹の青々とした葉に生命力が宿っていると感じられ、そのパワー(霊威)で場を清めたり、邪を祓ったということに由来しています。遠い昔、神道が呪術だった頃から続いている原始信仰ですね。

 

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 スイカズラも今が開花期の蔦(つた)植物で、住宅街の垣根や柵に植えられたりしている。野山の山草でもあります。細長く白い花がたくさん咲く。

 香りのベースはフローラルですが、それにプラスして艶があり、生っぽい独特の癖がある。この癖のアクセント、うまく言葉にできないですが、なぜか自分の内では官能的な感じなんです。

 この花の香りについて、よくいい香りがすると書かれていますが、そういった一般的というか、月並み(失礼しました)な批評を超えた特別な香りで、自分の好きな花の香りのベスト3に入っている。

 初めてこの香りと出合ったのは、インドのバラナシでした。蒸し暑い夜、ヒンドゥー教の寺院が続いている泥道の路地を歩いていたら、えも言われぬ香りが漂っていた。   唐突な比喩ですが、その空間にイノチがほとばしっているような匂い(表現が難しい・・・)。

 見ると、暗がりに一面、白い蝶のような花。まさに夜来香(実際は植物学的には違う種類なのですが、シチュエーション的には、これ!って感じ)。

 インドの街には供え物や儀礼のための品を売っている店が多いのですが、スイカズラの花輪や線香はラインナップの定番に入っていました。

 

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 好きな花の香りのベスト3についてふれましたが、一番はブンタン(文旦)の花です。この樹も今が開花期です。柑橘類ですが、みかんやゆず、レモンよりも花も実もずっと大きい。花も実も柑橘類で最大だとか。

 花は、肉厚で房状になって、見た目、爬虫類っぽい。けっこう重みがあり、ずっしりしている。その分、香気も強い。柑橘類の花に共通する匂いの系統ですが、より濃密でクリーミー、ファンタジックな雰囲気の香りです。

 香気の強さは、量は質に転化するといってもよく、他の柑橘類の花のようないい香りといった域を超えて陶酔感をもたらす香りです・・・香りで陶酔感とは? ちょっと言い過ぎでしょうか、ぜひブンタンの花の香りを聞いて(嗅いで)みてください。

 先日、この樹のある住宅街の奥まった路地に行ってみたら、なんと根元から切られている。 二階建ての屋根ほどの高さの樹で、毎年、大きな実をつけていた。

 30〜40年ほど前に、アパートの通路とブロックの隙間の狭いスペースに苗木を植えたという話しをお年寄りから聞いた憶えがある。その話しを聞いたのもかなり前のこと。隣りの駐車場に枝がせり出し、通路の邪魔にもなっていた。

 ブンタンは東南アジア原産で、日本では九州と四国の高知で栽培されている。九州、四国が露地栽培の北限とか。都内で大きく実をつける樹になっているのは、けっこう珍しかったのではないか? このあたりで、ここまで大きくなっているブンタンの樹はほかに見かけない。

 ところで、この場所から 200 メートルほど離れた表通り沿いの家の庭にアボガドが植わっているのですが、その樹には「せたがやトラスト」(区内の名木を選定している団体)のプレートがかかっています。太い幹のアボガドで、大きく育っているのが珍しいことから選ばれたようです。

 こんなに素晴らしい香りのする花なのに、誰もそれを知らないまま伐採されてしまった。毎年、この香りを楽しみにし、自分の内では、貴重な存在でした。

 

 生花の香りは、生きた香りです。このことは、特に強調しておきたい。

 生きた花の香りを嗅ぐと分かりますが、例えば、バラでも蘭でもジャスミンでも、実際は、いろんな香気成分が微妙に、そして渾然と混じりあっているんですね。単体の匂いではなく、融合した匂いというところが自然の匂いなんだと思う。

 また、もう一つの特徴として、生花の醸し出している湿り気が感じられる、ウエットな香りでもあるんですね。 これが花の生気の匂いということなのではないでしょうか。

 

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