モミ、クロマツ、ヒバ、ウメの樹脂を採る

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 8月の終わり、いつも一休みしている公園の樅(モミ)の樹の幹に何かキラッと光るものが付いているのを見つけた。水滴?・・・でも、もうちょっと膨らみと質感があって、思いっきり近づいて凝視するとレンズを通して見ているような空や雲がファンタジックでした。
 幹の表面に点々と樹脂が染み出していたんです。 
 以前、同じ樹から採った樹脂を乾燥させ、香として焚いたことがある。ヨーロッパ産の樅の樹脂よりもいい香りだと好評でした。
 そんなことがあったので、樹脂が出てこないか気にしていました。しかし、この樅は樹齢もそんなになく、幹の太さは15センチぐらい。二週間ほど掬っては、また少し出てきたのを掬ってと繰り返しましたが、たいした量にはならないまま、彼岸花が地面からにょっきり出てきて、金木犀の香りが漂いはじめるころ樹脂は出なくなった。門香として焚くので、少量でもなんとかなると乾燥させています。
 小さな金属のヘラで掬っていたのですが、やっていると、指にくっついてベタベタする。鼻を近ずけて嗅ぐと、新鮮な樅の樹脂の匂い。久しぶりでしたが、すぐに思い出した、針葉樹の深い森のイメージ。僅かにレモンのような柑橘類の香気も感じる。
 シャープで鋭角的な匂いです。乾燥させて香として焚くときには、このシャープで尖ったところはなくなります。

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 黒松(クロマツ)の樹脂も今の時期です。近所の公園に黒松の林があり、そこで探すのですが、実は、あまり見つからない。見つけてもごく僅かしか採れない。

 ふだんは松の幹を細かに注意して見るなんてことないので気づかなかったですが、思いの外、カメムシがいるんですね。それも松の樹皮そっくりの保護色をしたカメムシ、よく見ると甲の模様がアフリカの民族的な布柄や仮面の模様にも似ている。

 そういえばこの公園、東側が黒松、西側が椎の木ときっちり区分けされている。樹齢から察するに明治時代でしょうか、計画的に植林されている。江戸時代には長州藩の敷地だった所なので、その縁から造園されたのではないかと思う。

 いまは区の公園として開放的な空間に整備されているのでタヌキやハクビシンの居場所はないですが、椎の木のうろには野ネズミの巣がありイタチもいた。黒松の高い梢にツミ(小型の鷹)が巣を作っている・・・なるほど、隅々まで人間の管理が及んでいるようでいて、それでも人の手の届かない所に自然の生き物たちは居場所を見つけているのですね。

 一本だけ、古木の大樹にくっ付いている樹脂の塊を見つけました。キャラメル色をしたカボション・カットの石のよう。何年もかかってこの大きさになったものです。今年、新しく滲み出てきたばかりの樹脂は無色透明で、幹の凹凸の隙間に薄くこびり付いているぐらいで、それが溜まってこの大きさになるまでずいぶんと時間がかかったはずです。
 樅も黒松もマツ科で、樹脂は油脂性で匂いが強い。樅と黒松の樹脂は、同じような近い匂いですが、黒松は、丸みのある、厚みのある匂いで、仄かに甘みがあります。

 新鮮な樹脂の匂いは、ミントの爽やかさと杏仁豆腐(スターアニス)の甘さを合わせ、渾然としたような感じで、なかなか魅力的です。

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 気にしていると目に入ってきたのをもう一つ、日光檜葉(シノブヒバともいいます)の樹脂。写真は、染み出てきたばかりの雫です。

 日光檜葉は昭和の時代、家の垣根や公共施設、団地の周りによく植えられていた庭木です。この木は、地味っぽいこともあるのでしょうか、平成になってからあまり目につかなくなってきた。

 庭木の種類にも流行り廃りがあるようです。住宅街を歩いていて、庭木の種類に気をつけていると、その区域が宅地化された時代がいつ頃だったかだいたい見当がつく。

 青木(アオキ)や八っ手、黄楊(ツゲ)、砥草(トクサ)などは昭和の高度成長期以前によく植えられていた庭木です。葉蘭になると戦前ぐらいまで遡れるようです。

 近所を歩いていると、梅ヶ丘や豪徳寺には昭和初期、小田急線が開通し宅地化がはじまったころ建てられた民家が僅かに残っているのを目にする。計算すると築80年以上になる。当時、文化住宅と言ってたようですが、豪邸とか邸宅といった家ではないですが、一戸建てで庭のある木造家屋。庭の片隅に砥草や葉蘭がよく植わっていました。

 また、いまもごく稀に万年青(オモト)を見ることもありますが、これは明治、大正の時代に流行した観葉植物で、子供の頃は近所の庭の隅に放置されてる鉢や地面に根ずいた株がよくあった。

 そうそう、檜葉はマツ科の樹脂と同じような清涼感のある、でも樅と比べると弱めで、シンプルな匂いです。シンプルな分、塗料や接着剤を彷彿とさせます。

 薄く剥がれやすい樹皮なので、樹脂を採ろうとするとくっ付き手間がかかりますが、やはりこれも少しずつ集めて乾燥させています。
 

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 ついでに梅の樹脂も今の時期です。古木の幹にたくさん付いている。 樹齢の若い樹からは、樹脂はあまり出ないので古木を探すのがポイントになります。 
 梅の樹脂は、琥珀のよう。もともと琥珀は樹脂の化石なので、当然のことかもしれませんが・・・。朝の光が幹にあたると、樹脂の内側に赤やオレンジの光芒が見え、思わず魅入られました。
 梅の花の香りを期待していたのですが、匂いはあまりしない。桜や桃の樹脂もそうですが、匂いはしない。それでも採ってみました。
 以前、香の会で桃の樹脂を焚いたことがあります。匂いは、はっきりしませんでしたが、ヒーラーで霊感に秀でているという女性が絶賛していたのが印象的でした。確か、サイキックな香りだと評しておられました。

 そんなこともあって、自分の感覚では分からない、匂いのしない樹脂でも気になっていました。いつか機会があれば香として焚いてみたいなと思っています。

 

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