食い千切られる・・・ソクラテスの人面パイプ
朝、目が覚めると枕元に紙の小片が散らばってる。ボール紙、ペーパータオルのような紙、横文字の紙の切れっぱし・・・はて?
あっ、あれは大丈夫か? と慌てる。布団を動かさずに、シーツの上をゆっくりと手で探る。
あった! 中身は無事でした。横文字の紙片は破れた証明書だった。
先日、入手したばかりの古いクレイパイプの頭部、陶器でソクラテスの顔になっている。クレイパイプは粘土を素焼きしたパイプ。19世紀前半のドイツのもので、化石を扱っているドイツの業者が、こんなものもあるよ、と小皿に入れた6~7点の小さな顔の陶器を見せてくれた。
パイプは、アメリカ先住民が使っていたものが16世紀にヨーロッパに伝わり、18世紀に木や陶磁器のパイプがドイツを中心に広まっていった。
喜劇風の妙な顔とか、ヨーロッパ人の男の顔、それぞれ由来があるようで、聞けばリンカーンの顔なんかもあるという。
前夜、寝る前に横になって見てるうち、急に眠たくなってきて、厚紙の小さな箱に収め、それからはっきり覚えていない。夜中、眠ってるとき、犬のJがやってきて、箱を食いちぎり、それから包んでいた柔らかい紙と証明書を破いていたのだ。中の陶器は、無臭で硬いので当然、無関心。そのまま放ったらかし。助かりました。
これまでもJには、本や雑誌、新聞をはじめいろんなものをやられている。ペン、鉛筆の上部は齧られて崩れてる。毛布は齧られて穴が空いている。顔は齧られないですが、舐められる。
『陶庵夢憶』は表紙から58ページまで食い千切られ、自分で補修して欠落したままときどき読んでいる。『蘇東坡詩選』はバラバラに散乱し買い直した。しかし、その本をまた齧られ、二度目は表紙を破られただけだったので補修して読んでいる。
読んでいるといっても、 横になるとすぐに眠くなるので、 いつまでも読み進まないうち、結局、Jに齧られるパターンを繰り返している。
いつも齧るのなら、もちろん対策を考えるけれど、この間は、おとなしかった。それでつい気を許していると、向こうは気まぐれで齧るので始末に負えない。
このパイプはドイツの地方都市ウスラーで見つけたものだそうで、1835年のものだとのこと。
この年、ドイツで初めて蒸気機関車が走っている。 イギリスで蒸気機関車の営業運転が始まって10年後、そんなには時間差ないなという印象。日本では江戸時時代の天保年間にあたる。
ベートベンやヘーゲルといった人たちの少し後、ドイツが統一国家になっていく途中の時代で、資本主義の胎動期。まだ電気はなく、馬車が走っていた。思うに普通の庶民の生活・日常感覚では中世から近世の世界に生きていたのではないか。
う~ん、年表見ても政治的な出来事、事件、発明とかは書かれていても、そういうことはよく分からない。まあ、当たり前といえば、その通りで、天保のころの日本人のことだって実感するのは難しい。大塩平八郎の乱とか、映画の「天保水滸伝」だと下総の侠客どうしの抗争があり、利根川の河原で斬り合いをしてました。その頃、中国ではアヘン戦争が起きている。
このソクラテスの顔 鼻が高く、眼科が窪んでいて、ヨーロッパの哲人といった感じですが、実際のソクラテスの容貌は大違いでした。同時代に書かれた文書には、ソクラテスは容貌魁偉な人だったと記されている。
紀元前318年にギリシアの彫刻家リュシュポスがソクラテスの石像を作っていて、実物は残っていないが、2世紀のはじめに作られたそのコピーは、いまルーブル博物館に収蔵されている。ずんぐりした禿頭のオヤジといった感じ。
上の写真のような顔の造りをしてるのは、哲学の祖はヨーロッパ人じゃないと示しがつかないってわけだからですよね。
キリストの容貌にしてもそう。長い間、教会やヨーロッパの絵画で描かれてきたのとはずいぶん違うようで、イギリスのBBCが番組の中で科学的な知見を基に再現したイエスは、中東からアフリカ系の容貌をした浅黒い肌、黒髪の人物でした。
いつかヨーロッパ文明を客観的に見ることが出来るような世界になったとき、ソクラテスやキリストは名実ともに、これまでとは別人になるのかも。
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