翡翠(ヒスイ)をなでる・・・触覚の快感

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 渋谷のハチ公前、妙にすっきりしている。海外の観光客の長い行列ができていたのが嘘のよう。ハチ公と一緒に記念写真を撮る順番待ちの列だけでなく、周りはいつも人でいっぱいだった。  

 視界が開けるとハチ公の前足が目につく・・・表面がツルツル、銅光りしている。人が手で触り、なでていったので銅の地肌がすり減り、足指の造型が分からない。一体、どれほどの人が触るとこんな状態になるのだろうか? 

 前足に手の平を当てると、大寒の冷えびえとした金属の感触、体温が奪われキューンと冷えていく。しばらく手を当てていると、体の芯まで冷えてきて、肝臓、腎臓あたりに寒気を感じる。

 

 昨年の晩秋、風の快感について書いた。「風」の「快感」? 風ならいつでも、どこでも当たり前のことだし、それを快感と言ってしまうのは大げさか。

 でも、これこそ薫風というレアーな風のことを想い出していたとき、頭の中で「風」と「快感」が結びついた。ということでは、自分にとっては発見だった。

 

 今回は、ツルツルの物体に触ったとき、その滑らかな感触の心地ちよさ。

 翡翠(ヒスイ)の原石を磨いていたときのこと。ミャンマーのヒスイは、川の礫(れき)で丸っこく、クリーミーな緑色をしていた。

 原石の白い部分(こっちの方がヒスイとしては純度の高い部分ですが)を削って、緑色の部分が広がるようにサンドペーパーで延々擦っているうちに、地肌にヌルッとした感触が生まれてきたのに気づいた。

 この手触り、アイスクリームが口の中で溶けていく感じに似ている。蕩(とろ)けるような感触。皮膚に塗ったエタノールが気化するときの感覚なんかもそうだけど、融解にしろ蒸発にしろ消滅していく皮膚感覚は快感なのではないか。 

 究極的には、肉体自体がこの世から消えていくときの感覚がそうだと思うが、話が逸れていくので戻します。

 

 ヒスイは結晶構造がチエーン状に連なっており、硬いだけでなく粘り強く、簡単には割れない。こんな特性が粘りのある密な手触りを生み出している。

 ネットリとしたキメの細かさ、 指で撫でると細やかで、つややかな感触、絹の布地を彷彿とさせる・・・何度も手にしているうちに、感触の味わいに開眼したわけです。

 なるほど、漢の時代から続く中国の玉の文化は、これなんだなとひとり納得。ああ、古来、玉はネフライト(軟玉)が主ですが、それはそれとして、石の彫物を「見る」「愛でる」だけでなく、指や肌で肉感的に感触を味わう文化ということです。

 現代中国でも和田玉を羊脂玉と讃えているように、文字通り羊の脂の質感にある。

 

 ヒスイ(ヒスイ輝石)は石英(水晶、瑪瑙)よりも比重が高い鉱物で、つまりどっしりした重量感と硬質な質感はこの石の個性でもある。また、握っているうちに掌の中で温もってくる温感も味わいのひとつだろう。

 ヒスイは小石でも比重が高いのでどっしり感があり、掌に載せた石の重みからカミの感応(つまり神意)を知ろうとした、古の石占いに想いを馳せる。

 

 これに惹かれ、身の回りに転がっているもの中からツルツルした物をテーブルに並べてみた。鉱物は当てはまる石がいろいろあるが、まずヒスイがあるので他はパス。硬いものという流れなので、例えば犬や猫の肉球とか、レザーとかビニールの類いもパス。

 シカの角(削ってツルツルにした)、ムクロジの実(羽子板の黒光りしている玉。今の季節、林に落ちている黄色い果実を割って取り出す)、カルボン球(一件、黒真珠。炭素原子が金属結合した工業用の球。ダイヤモンドより硬い)を選んだ。

 光沢の出るまで磨いたシカの角の感触は優美(ホントにそう!)、グーッと湾曲した撓(しな)りの手触りがいい。ムクロジの実は、漆器にも似た植物ならではの温和で純朴な質感。超硬度の人間を拒絶し、取りつく島もない異質感のカルボン球、これはこれで個性だなと思う。それぞれ異なるツルツル感を味わう。

 

 深夜、目を瞑って、いろんなツルツル感に耽る。ツルツル感の違い、組み合わせの変化を味わうのは面白い。でも、感触は目で見えるもの、音で聞こえるものではないから触覚の変化を共通の言葉で表すのは難しい。形や色なら言葉・文字で伝えられるのですが。なにか意味や価値があるわけでもない。ダイレクトに感覚だけの世界。

 一方、目で見る、つまり光。耳で聞く、つまり音、よりも体の一部(指)で物に触っているのだから、ずっとリアルな体験だ。

 また、硬度や比重の違いも、統合された、ひとつになった味わいどころです。とはいえ、そんなこと言っていても、現実は、見た目、テーブルの前でただボーッとしてるだけ。

 ・・・横道に逸れますが、外は冬枯れ、木々の葉が落ち空気の流れぐらいの風では物音もしない。ツルツル感に浸っていたらサラサラ小さな音が聴こえてくる。何の音? かたまって生えている葉蘭の葉が微風に揺られ擦りあっている音でした。関係ないことですが、葉蘭の大きくて、一年中青々とした葉は、刺身を盛るのにいい。

 スルーッッッッッッ→サラサラサラ→ググッ→ツルールーン(シカの角→ムクロジ→カルボン球→ヒスイの感触)と触り心地の変化を楽しむ。

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