冬の光とジェレメジェバイト

  2月も下旬、昼間の空気がぬるんできた。青空に白味がかっている。近所の河津桜は薄紅紫の花が満開。今年も来るかなと気になっていたジョウビタキが庭に姿を現した。春、シベリアの方にいく前に平地に移動してくるんだけど、ここには一羽だけでやってくる。 冬も終わりか。

 地面からは蕗(フキ)がもっこり芽を出している。芽はまだ柔らかく、早々、摘んできて味噌汁に入れた。・・・そうでした、今年は蕗味噌をたくさん作らなきゃ。50パックを目標に配りたい。

 

 写真は、天使が空を指差し、見よ、いま天が開いたと告げるが、みんな地面からせり出してくる光る物体を凝視していて相手にしない、そんなシーン・・・適当な思いつき。

 今年の冬、朝の光で眺めていたのは、まずシェリー酒の色のトパーズ結晶、気の遠くなるほど美しい・・・まあ、これは毎年、真冬の朝の「儀式」みたいになってるんで。それからアクチノライトの緑色の結晶、翡翠にはない眩い光沢がいい。そしてジェレメジェバイトの結晶。

 このジェレメジェバイトにしばらくハマっていた。六角柱の透明な結晶ですが、えらく小さい。なにしろこれまで世界各地で採集されている原石は数ミリの結晶がほとんど。

 小さくて指でつまんでるうち、どっかに紛れてなくなっちゃいそう・・・こういうのって非常に困る。世界最小の金貨ってのがあるんですが、近世インドの藩国の金貨で、以前、箱から移し替えてるうちに幾つか紛失している。ちょっとした隙にシャツの袖口にくっついてどっかにいっちゃったり、箱の窪みに紛れこんでしまったり、小さくて見つからない。

 ついでに一言。小さくて扱いに気をつかう上に、鉱物名もややっこしく気をつかう。ロシアの鉱物学者の名前に由来しているのですが、ドストエフスキーの小説の登場人物がカタカナ表記でややっこしいのを思い出す。

 

 朝の光に当たったジェレメジェバイトのピュアーな輝き・・・透明で屈折率の高い鉱物は、トパーズ、ペリル、コランダム、みんなそうですが、ジェレメジェバイトは角度によりスカイブルーに、それも成層圏の空の色が出てきて、ウワッと当たってしまった。網膜から松果体を直撃されたような、ええ、比喩ですが、そんな感じ。

 微小な針の先っぽ、小さな小さな六方晶の一面から成層圏の空が出てくるなんて、華厳経的というか、ハマってしまったわけです。

 

 実は、写真の真ん中に立っている小さな針みたいなのがジェレメジェバイト。あまりに小さく写真を拡大してもなんか興ざめ。単体じゃ何だか分からないし、それで周りにエキストラを並べてみた。

 天使は古代ローマの発掘品。2~3世紀に作られたもの。青銅で出来ていて、緑は錆の固着した色。天使といってるけど、正しくは、丸顔、幼児体型、小さな羽と、ローマ神話の恋の神(クピド)、つまりキューピッド。

 キューピーちゃん人形の背中にはちょうどこれと同じ小さな羽がついている。

 古代ローマと中国の漢の発掘品には青銅で作られたものがたくさんあって、集めていくときりがない。いまも新たに掘り出されたものが売りに出されてるし。時代区分では共に鉄器時代に入っているが日常の暮らしに定着していたことが分かる。まあ、10円玉も青銅だし、ずっとそうか。

 犬のようなアシカのような半透明の青い動物は、一見、ガラス細工のようでいてアクリル製、妙に軽い。たしか愛知の玩具工場だったか、昭和のころのデットストックで、骨董市の片隅に出ていた。二束三文のものでしたが、合成樹脂の柔らかな質感、トロンとしていて、かわいい。

 

 女性のフィギュアはフェーブと言って、フランスのケーキの中に入っている陶器の人形。ガレット・デ・ロワという、アップルパイの生地にアーモンドクリームともう一つ、なんだったか忘れちゃいましたがクリームの入ったケーキで、1月のキリストの生誕にちなんだお祝いのとき食べる。

 大きなケーキをカットして小分けしたとき、その人形が入ってる一片を得た人はラッキーということで、幸運のシンボルなんですね。

 フェーブは、昔はそら豆が入っていたのが陶器の人形になり、いまはいろんなアイテムがあって、どれもかわいいし、いかにもフランスといった配色。・・・もともと、そら豆の色感、つるんとした明るいグリーンにほんのり赤紫が混じっている、あれから来てるのではないか。

 近所にフランスのケーキとお菓子の店があり、そこで聞いた話しです。店主の方は向こうで20年ケーキを作っていたとか。蚤の市にはいろんなフェーブ並んでますよと言っていた。庶民の暮らしに馴染んでいるということでは、崎陽軒のシュウマイ弁当に入っている陶器の醤油容器・・・ヘタウマな顔して寝転んでる人形・・・みたいな存在なんですね。

 話していて、店主さんの中にフランスの文化が根付いているのを感じた。というのは、ここは犬も店の中に入っていいことになっている。向こうでは犬の散歩の途中、店に訪れたりしてるのが普通の光景だそうで、なるほどねと思いました。

 犬のJの散歩中、お店に寄ったので、日本とは違うんだなと思った次第。

 やっぱり個人でやってる店がいいなと思う。店主の職人の技が生きているのだから。規模の問題もありますが、そういう人の作った味に出会いたい。今は、大きな店やチエーン店とか有名店や老舗でも、みんな画一された味覚ばかり。

 この店でも1月にはガレット・デ・ロワを店頭に出していて、日本では誤食しないように、そら豆を入れているとのこと。

 

 小さくてかわいいって、もし平安人の清少納言がフェーブを見たら、うつくしいと見惚れたんじゃないか。ローマのキューピッドもアクリルの動物も、ジェレメジェバイトも・・・。

 寒い朝、よく眺めていたのですが、どうも反射光の冴えがゆるくなっているようで。冬の光が名残惜しい。

 

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