ブルートパーズは「いい!」
(ブルートパーズの原石 、どうも写真は実物のイメージと違っている。とりあえずこんな物体、ということで。全体の形は丸っこくて、タマゴぐらいの大きさの結晶。)
気分がクサクサしてるときはブルートパーズ(原石)を見る。ブルーと言っても青というよりは透明な水色っぽい結晶。テーブルの上にゴロンと置き、ただ眺めてるだけ。
朝の光が斜めから射し込んだ結晶は極美。見ていると、しばし時を忘れ、その間、思考が止まってクサクサした雑念が消えている。忘我と言ってもいい。
結晶の一面は、艶やかでツルンとした真っ平らな平面、無機的な光沢のテリ、氷や水晶よりも硬質な透明感・・・見ていると微妙に意識が変容している。
忘我という言葉は、本来はスーフィーやインド由来の流れをくむ宗教的な体験の中で語られているのですが、そういう文脈とは場違いの状況でも同じ意識状態になることがある。
別に、それでクサクサしている根っ子が解消されるわけでもなく、一時的な気休めにすぎないのですが、それで気分がリセットされるので、十分癒される。一応、社会生活をしているので、一日中、ボーッと眺めてるわけではないです。そう、これは疲れたときにもいいです。
トパーズ( Al2(F,OH)2SiO4)は、鉱物学ではケイ酸塩鉱物というグループに分類されている。そのグループの代表的な鉱物といえば水晶(=石英)、化学式は二酸化ケイ素(SiO2)、地球にある最もベーシックな元素を組み合わせた鉱物です。
トパーズはケイ素、酸素にアルミニウム ( Al )と水酸基( OH )、フッ素( F )が組み合わされた組成で、アルミニウムの化合物はルビーやサファイアなどコランダム( =鋼玉、Al2 O3、酸化アルミニウム)のようにとても硬くなる。トパーズはケイ酸塩鉱物の中では最も硬い。上の写真のトパーズは、ずっしりとした重量感がある。
実際に、見た目(輝き、光沢)と手で触った感触(質感)や、ずっしり感(比重)で分かりますが、トパーズは、比較すると水晶とコランダムのちょうど中間といった感じです。
トパーズは、サファイア、ルビーのようなコランダムやエメラルドなどよりも大きな結晶が採掘されている・・・透明度のある結晶の話しです。不透明の結晶ならば、見るからにデカイという感じのコランダムやエメラルドもありますが、いくら大きくても不透明だとやはり岩石の標本みたいでちょっと・・・。
大きくて透明な結晶は、それだけでインパクトがある。小さな結晶にはない物体としての存在感があります。言葉にならない透明な非現実感というか、それがトパーズの魅力だと思っている。ついでにコランダムよりずっと安い。
日本でもトパーズは採れる。和名は黄玉、明治時代にはヨーロッパにジュエリーとして輸出されていた。日本のトパーズは無色透明で、黄玉と呼ぶのはおかしいのですが、18世紀にドイツで淡黄色の結晶が採掘され、当時、それを加工したアクセサリーがヨーロッパでもてはやされていたことから、同じ鉱物なので黄玉ということになった。
(日本のトパーズ。以前、岐阜県の山で採ってきたもの。それなりのサイズの原石は、過去に取り尽くされている。小さくて、これなら水晶の粒と見間違ってもおかしくない)
それまで日本では水晶と黄玉の区別がはっきりしていなかった。確かに透明な水晶と透明なトパーズは一見、よく似ている。でも、よく見ると、トパーズは水晶よりも屈折率が高く、比重も重いので、水晶よりキラキラしていて、手に持つと重くどっしりしている。水晶は結晶の断面が六角形ですが、トパーズは平行四辺形という違いがある。しかし、明治になるまで、そういう違いは、見逃されていた。
トパーズといえば、先日、石好きの女性Aさんからこんな話を聞いた。ふだんは会社で経理の仕事をしているAさんは、その日に限り、やむ終えない用事で早退けすることになった。帰りの地下鉄の車内でのことです。
隣に立っている女性のつけているブレスレットが普通じゃないことに気づいた。石のギラギラ感にクラッとした。車内の照明の下でも眩しいぐらい、それもブルーに輝いている。
Aさんは、気づかれないようブレスレットをちらちら見てるうちに目が離せられなくなった。水晶の屈折率1.54~1.55に対し、トパーズは1.66~1.67で、水晶よりも輝きが強い。
石のはっきりとした明晰なブルーの色感、それに光を最も効果的に反射するカットを施し研磨しているのだから、やりすぎ(そこまでいくと毒気というか)ぐらいに出来ている。
その女性が下車すると、Aさんは衝動的に後をついていった。それって尾行でしょ。やむ終えない用事は、どこかにいっちゃてる。夢遊病者のようにとか、催眠術にかかったようにとか、比喩ではなく現実にそういうことあるんですね。
Aさんは、以前から透明でキラキラしている原石に魅せられる性分だと自認していました。そういう性分のことをなんと言えばいいのか、 能力(「物事を成し遂げることのできる力」大辞泉)というのとは違うし、認識力・知覚力に近いが、 広い意味で審美眼というか、生まれつきこういう感受性が鋭い人っているようです。
以前にもふれたと思いますが、さくらももこさん(ちびまる子ちゃんの作者)は宝石が大好きだった。本の中で、どうして宝石に夢中になったのか、その理由を「星が自分の中にあるようなものだからね。星に似てる物なんて宝石しかないよ、この世には。」と説明していました。
この一節、本心を語ってるなと思いました。そして、なんか普通ではない気配を感じました。これは、ふつうにキレイだから好きと言ってるのとはちょっと違う。それが極絶対的な世界と接するところまで極まっている人の言葉のような気がした。
そういえば、さくらさんの好きな石の一つに、色のついたトパーズ、よくインペリアルトパーズと呼ばれている黄色から橙色、赤系中間色のトパーズをあげていました。シェリー酒やウイスキーのような色のものもある。
・・・書いていて、以前、ウイスキー色をしたトパーズの小さな結晶を見て動けなくなってしまった女性がいたのを思い出しました。 Bさんとしておきます。石を見て、ここまで感動する人は稀で、よく覚えている。
Bさんは初めてこの色のトパーズを目にしたそうで、表情や目つきからリアルに感動してる様子が分かりました。トパーズを見つめたまま棒立ち、言葉が出てこない。
察するに、Bさん自身、どうして自分がこれほど魅せられているのか分からなかったのではないか。
直感は、統合的な「感覚」なので、分析的な言葉では言い表せられないということがある。部分、部分を、例えば色や形、模様、表面の質感、内包物、屈折率や分散と分けていっても、それはデータにはなっても核心には迫れない。人はそれらが一つになった全体的イメージで感じているのですから。
Aさんにしても、Bさんにしても、たぶん、さくらさんも、同じタイプの人なのではないかと思う。なんとなく直感は性別と関係していて、どうも女性の方が直感能力(?)が高いように思える。
蘭の花の中には女性にしか香りが分からない品種がありました。男にはその香りが認識できない。おそらく女性ホルモンが感知能力に影響しているはずで、そういう方面のことはまだ未知の領域なんじゃないでしょうか。
話しを戻します。Aさんは、改札口を出てからしばらく女性の後をついて行った末、話しかけてブレスレットの石について尋ねた。相手の人、びっくりしたかと思います。
そして、クラッとした石は、ブルートパーズだということが分かった。
アクセサリーに用いられるブルートパーズは、ほぼ全て放射線の照射と加熱処理によって青い色にしたものです。先ほど「 やりすぎ(そこまでいくと毒気というか)」と書きましが、自然ではありえない濃さの青、その派手な輝きに俗っぽさを感じ引いてしまう人もいる。
天然のブルートパーズ は、青の色が薄くて小さくカットすると、見た目、無色に近くなってしまうし、また、そんなにたくさんは採れないのでアクセサリーに用いられることはほとんどない。
だからと言って貶めてるわけではないです。というのは、昔から、確か1000年以上も前からコランダムやジルコンなどの宝石は、熱して色を変えているので、人の手を加えることは、この世界ではノーマルなことだったからです。
結局、ルースになると自然石もそれに手を加えた半自然石も、あるいは人工石もキレイという基準では優劣がない。天然ダイヤモンドと変わらない人工ダイヤモンド、あるいは天然ダイヤモンドよりもキレイな人工のダイヤモンド・サイミュラントとか、それがコランダムでも同じことですが、本物よりもキレイな偽物ということもある。
話が飛びますが、昔から書画、骨董、刀剣の中には、本物より上の偽物、真作より秀でた贋作も混じっていると言われてました。
書は、ほとんど知りませんが、昔の高名な書家の作品で、本人よりも弟子が代筆した書の方が上だといういう話しもある。刀剣の世界で「無名に偽物なし」と言ってた人がいました。当たり前のことを言っているようであり、でも改めて考えるとけっこう奥深い言葉でもある。
平成の時代、一世を風靡した交響曲の作曲家の作品が、実は代作者が作っていたと分かり騒ぎになったこともありました。
思うに、それが本物か偽物かという区別(鑑定の眼と言ってもいいですが)と、それがストレートな言い方で「いい!」ものか、素晴らしい、美しい・・・言い方に困りますが、そういうものかの見きわめは、異なる次元のことのようです。
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