ポンカンはトロピカルフルーツ

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ドリアンとタマリンド。暑い国のフルーツは形が面白いところもいい。


 トロピカルフルーツが好きです。南の国の果物に開眼したのは、バングラデシュの村でジャックフルーツ波羅蜜)を食べ感動したときでした。そのことは、以前、ブログに書きました。

 それから夢中になっていろんなトロピカルフルーツを探し求めた。奇妙な形をした果実もあって好奇心をそそり、いっそう弾みがついた。

 結論的に、これが一番と思ったのはドリアンとチェリモヤでした。チェリモヤの近類種でポポーやシュガーアップル(釈迦頭)もなかなかですが、あげるとすればチェリモヤになる。そこで一応、区切りがつき、トロピカルフルーツ熱は治まっていった。

 

 振り返ると、いろいろ口にしましたが、甘くて、柔らかくて、豊潤な香気、この三つに惹かれてたのだと思っている。 熱帯、亜熱帯の風土にはそういう果実がけっこうありました。果物でも酸っぱい、硬いのは敬遠気味。また、香気の少ない果実はどうも味気ない。

 補足すると、マスクメロンと洋ナシは温帯から北の果実ですが、これは例外。ともにアジア原産、ヨーロッパで品種改良されて出来た果物で、三番目の要素、香気という面で惹かれた。

 マスクメロン、洋ナシの冷えた香気は陶酔的だった。普通、温度が高い方が香気はよく発散するのですが、この場合は、冷たく冷えた香気ならではの印象のことを言ってるわけです。

 もしかして、果実の熟成(=老化)ホルモンとして働いているエチレン(ガス)を低温にして、その冷ややかな匂いを嗅いでいたらそれで陶酔してたかも? 

 そういえばアンドルー・ワイルはマンゴーが大好きで、こんなふうに書いていた。

 「ふつうの果実ーーリンゴ、オレンジ、バナナなどーーを何気なく、読んだり書いたり喋ったりしながら食べている人はよく見かける。しかし、完熟したマンゴーを食べてその純粋な快楽に浸りながら、他のことができる人にお目にかかった試しがない。」(『太陽と月の結婚』)

 正直、ここまでのマンゴーに出会ったことはない。マンゴーっていうと、いつもなんか柿に似てるなー(マンゴーの風味はないですが)と思うぐらいで、ワイルの言ってるようなマンゴーを食べてみたい。

 パキスタンのマンゴー(アルフォソン種)は糖度が高いことで知られていますが、冷やして食べると、なんだろう、果実というよりは甘いスイーツのよう。

 こういうマンゴーをたらふく食べると惚けるというか、脳に糖分過剰で影響を与えるのではないか。まさにナチュラル・ハイ。

 

 つい最近、久々に新しいトロピカルフルーツと出会った。それはポンカン。別にそんなに珍しくはない。今の季節、スパーや八百屋さんに並んでいる柑橘類の一つです。

 5個パックしたビニール袋に「ポン柑 南国の香り」と書かれた紙片が入っていて、それが目につき買ってみた。

 ポンカンを口にして、トロピカルフルーツを追っかけていた頃の味覚の記憶が甦ってきた。ポンカンは以前も食べてるのですが気にとめることもなかった。

 ふと、この味、どこかで食べてたな? と気づいた。インドで食べたミカンの味と似ているのを想い出す。インドでよく見たミカンは、外見は日本のミカンと似ていた。日本のミカンのようにツルツルできれいではなかったですが。

 ミカンは日本でごく普通にあるので、インドで見ても関心度は低くかった。外皮が薄く、房の皮がぼってりして、中に種があって日本のミカンより野生的だなぐらいに思っていた。外見からの先入観で、味はよく意識してなかった。

 雲丹みたいなランブータンや輪切りにすると星型になるゴレンシ、仏像の頭みたいなシュガーアップル(釈迦頭)、爬虫類っぽいサラク、芋虫みたいなタマリンドといった形や色の変わった果物に目が向いていて、外見が日本のミカンに似ているので見逃していた。

 トロピカルフルーツの味に惹かれていろいろ探し求めていたのが、途中からその形や色の方に目移りしてしまい横道に逸れていた。

 

 改めてポンカンを評すると、甘さが強く、味が濃厚、香気が強い。これって温帯の果実にはないトロピカルフルーツの特性と言ってもいいのではないか。インドの路上で、ミカンを手押しの圧搾機で潰して売っていたジュースの味でした。

 温帯の果物に比べてトロピカルフルーツは味の輪郭がはっきりしている。その甘さ、味、香気は、自然の味を濃縮して作られたキャンディのように感じられた。

 木になった果実でありながら、人が作ったスイーツ、キャンデイのような、あるいはそれよりも美味な味がするなんて、人為を超えた天為、そんな感動がありました・・・冒頭でふれたジャックフルーツをはじめて食べたときそれを感じたので、夢中になっていたわけです。

 

 ところで、柑橘類でブンタンもトロピカルフルーツでした。ポメロと言ってタイではそのまま食べるだけではなく、料理の具にしたり、塩、砂糖、唐辛子をつけて食べている。

 日本のブンタンやナツミカンとアメリカのグレープフルーツは、サイズがミカンよりも大きく黄色っぽく見た目、似てるなと思っていましたが、もとは同じ祖先で、それが東西に渡って出来た品種でした。その原産地はマレー半島からインドネシアあたりだとか。

 とするとタイのポメロは原種に近いのでしょうか? 食味は日本のブンタンの方が野趣というか、鈍臭く感じられ、一方、ポメロはすっきり洗練されていてグレープフルーツに近いように感じた。ブンタンは、原種が日本列島でガラパゴス化したものだったりして。

 実は、花の香りの中で一番いいなと思っているのはブンタンの花です。果実の方は大振りで大味、香気もそれほどでもないですが、花の香りは最高、毎年、5月になると咲きます。関東、東京ぐらいが北限といわれていて、住宅街の庭木として植わっている。

 しかしブンタンの果実は甘くないし、ナツミカンほどではないにしても酸っぱい(微かに苦味)と、ポンカンをトロピカルフルーツに加えた我流の分類からは外れます。

 喉を潤すとかコテコテに甘いもの食べてるときの口直し、整腸剤(?)みたいな果物としてはいいのかも。それにしても大きいので食べ出がありますね。

 

 ネットを検索すると、世界三大フルーツとして、マンゴー、マンゴスチンチェリモヤが上がっています。この手の選定はだいたい欧米の人の味覚が世界基準になってる。

 日本の食用の菊の花を試食したフランス人が、禅の味がしたと言ってたのを思い出す。異文化、ジャポニズムの味ってことだと思う。こちら側からすれば、自分がはじめてマンゴーを口にしたとき果肉に菊の風味がしたことを覚えている。でも、それが禅の味と感じることはない。生まれ育った地の食文化によって、同じものでも違う味に感じられるのではないか。

 欧米人の味覚(+嗅覚)で選んだ世界三大フルーツの番付と、日本人の味覚(+嗅覚)で選んだ番付は違ったものになるはず。洋ナシにしてもマスクメロンにしても、そうレモンもそうですが、ヨーロッパ人がアジアから移植して改良したフルーツの特徴は、どれも香気を高めることにポイントをあてている。そのあたりに嗜好の方向性が見てとれる。

 また、歴史的に麝香や龍涎香に対する思い入れが強く、文化として定着していたアラビアや中国、つまりデイープというか濃厚というか、そういう嗜好の国々で世界三大フルーツを選んだら、何が挙げられるか興味あります。

 バナナとパイナップルは、19世紀後半から大規模なプランテーション栽培が行われ、世界中に大量に廉価で出まわってるので、幕下扱いされている。もし希少な存在だったとしたら、三大フルーツのうち二つは占めていてもおかしくないと思う。

 中世のイギリスではオレンジとレモンは王侯貴族しか口にできない贅沢品だった。もともと柑橘類の原産地は東南アジアで、中世にアラビア商人が西方に伝え、その後、地中海周辺で栽培されるようになった。

 それまでオレンジやレモンを知らなかった人が、はじめてそれに接したとき、すごく驚いたはず。当然、人はその香気に取り憑かれる。当時、香辛料やお茶がヨーロッパで持てはやされたのと同じようにオレンジ、レモンもそうだったんですね。

 今は、ごく普通ににオレンジ、レモンは流通しているので、中世の人々が感じたであろう香気の魔法は解けている。結局、人の嗅覚、味覚(主観)は時代や地域性=文化によって変わっていく。同一ものが違った香気に感じられるようになるってなんだか魔法っぽい。でも、人間の感覚ってそういうものなんじゃないか。

 

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