枕草子に「塔は」がないので・・・

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(駒沢給水塔。 高さ33.6メートル、ずん胴の円筒形、屋上は王冠みたい、真ん中に球の飾りが特徴。江戸川乱歩はこの塔を見て怪人二十面相のアジトをイメージしたとか。大正時代に建設され、現在は閉鎖されているので事実上、よく補修・整備されている廃墟といった感じ。敷地にタヌキが棲んでいる。)

 

 『枕草子』は「ものずくし」本でもある。「類聚章段」(るいじゅうてきしょうだん)といわれる部分がそう。難しそうな言葉ですが、同じ種類の事柄を集めて列挙しているところです。

 清少納言が見聞きした森羅万象の中からひとつずつ項目を選んで、それぞれいいな、面白いなと感じたものを挙げている。具体的には、

 「木の花は」、「池は」、「鳥は」、「虫は」、「馬は」、「猫は」、「滝は」、「橋は」、「森は」、「島は」、「寺は」、「月は」、「雲は」、「織物は」、「硯の箱は」、「筆は」、「貝は」・・・これらは一部。こんな感じで次々、いろんなものを取りあげ、木の花ならこれがいい、池ならここがいいとリストアップしている。

 読んでいると1000年前の人の感性が伝わってきて、現代の人間とあまり変わってないなと思う。

 

 一例を紹介すると「貝は うつせ貝。 蛤 いみじうちひさき梅の花貝。」といった文章。うつせ貝は貝殻のこと。ハマグリ、そしてとても小さな梅の花に似た貝がかわいくていいといった意味になる。

 現代のことですが、北欧や東欧の文具が好きな女性たちがいる。消しゴムとか鉛筆、付箋、クリップ、ものさし、ペンケース・・・デザイン、色ずかいが、よく見るエスニックとかアメリカナイズされた雑貨とは異なるユニークさが斬新。小さくてかわいいものに惹かれるのは、清少納言と同じ心根を感じる。清少納言がいまの時代にいたとしたら、ああいう文具に夢中になるはず。

 『枕草子』は、辞書やウイキペディアのように客観的に、あるいはそれにまつわる話を網羅しているのではく、個人的な好み、主観で思いつくまま綴られている。彼女の心に残った森羅万象の印象の断片を集めたエッセイ。感性的で繊細な文章は、唐詩宋詞の漢心(からごころ)とは違う世界で、これが大和心なんだなと思う。

 清少納言の趣味趣向を見ていると、平安時代にもマニアックで、オタクっぽい人がいたんだなとも思う。江戸時代の東西番付表にも同じ感性が生きているのを感じる。江戸時代、大相撲の番付から歌舞伎役者、温泉、食べ物、お祭り、植物とありとあらゆるものに番付表が出まわっていた。こうしたこだわりの心根、日本文化の伝統と言ってもいいのではないか。

 

 8月末、雨の日の夕方、車で青山通り神宮外苑を通りがかったとき、いちょう並木の入り口に張りぼての塔らしきものが立っている。よく見ると天守閣のある城でした。

 夕闇迫るなか、低い雨雲を背景にしたこの城、大映映画「大魔神」の特撮セットを連想する。後で調べたらオリンピック関連でそこに設置されていた「東京城」というアート作品らしい。

 予算とスペースが限られた中で製作されたようでサイズは小さい。なので何を作っても、あまり人目につかない・・・ということからでしょうか、妙に背高ノッポでシュールな造形。城というよりは塔に見える。

 なるほどね、目立つ、遠くからも見えるという条件を満たすためには、高い建造物になるので、必然的に塔になる。

 東洋の塔の始まりは、インドの仏骨を納めた塚(ストゥーパ)、つまり崇拝の対象で、それが仏教とともに中国、日本に伝わり、進化して建築物の塔になっていく。人々の崇拝の的であるためには目立たないと按配が悪い。だから東洋の塔は、目立つことを目的として作られた建築物だったわけです。「東京城」が塔みたいになっちゃったのも分かるような気がする。

 

 そんなこと書いてるうちに、これまで見た塔のことを思い出した。枕草子には「塔は」という項目はない。そのころ既に法隆寺醍醐寺五重塔はあったのですが。当時のハイテク高層建造物、ランドマークタワーだったはずで、彼女が知らないわけがない。取り上げることに差し障りがあったのでしょうか。

 それじゃあということで、戯れに塔について選んでみた。東京三大タワー(?)といわれるスカイツリー、東京タワー、船堀タワー(スカイタワー西東京?)は漏れている。一方、浅草十二階と大阪の通天閣は入っている。

 当然といえば当然、客観的に書いてるのではなく主観だけで書いているのだから。浅草の十二階は見たことがある(地下の基底部だけど)。その一部のレンガをもらってきた。また、選んだ塔の中で、上ったことのあるのは、通天閣だけです。

 

 ああ、そういえば1980年代後半、バブルのころに全国各地に作られた巨大大仏、あれも塔といえば塔なんですね。茨城県牛久市の大仏は高さ120メートルで展望台は85メートル。仙台の仙台大観音が100メートル、淡路の世界平和大観音像も100メートル、バブルで儲けた人たちが作った。宗教法人化すると税金がかからない。

 頭が硬くて先入観から塔だとは思ってなかったので漏れてました。牛久大仏は入れてもいいかも。今度、行ってみたい。

 ついでに・・・江戸六塔で現存している池上本門寺五重塔と千葉県市川市法華経寺五重塔はなかなかいい。江戸時代は武家が支配していた社会なので塔の造りは質素。奈良、京都にある古刹の五重塔に比べると、言い方次第で清貧とも貧相ともどちらにでもいえるのですが。

 ともに建築物として見るだけにとどまらず立地、つまり小山の頂き、そして里山の盆地にひっそりと建っているところ、名所旧跡や観光地にはない佇まいがいいんです。もし、この二つの塔を見にいくのなら、季節はいつでもいいですが、時間帯は、明け方か夕方がいい。昼間の塔とは別の異貌が見えてきます。

 

 塔を選ぼうとするとき、知名度、高さ、美しさ、古さ、珍しさとか、いろんな選択基準があるでしょうが、全く個人的な、記憶に残っている印象のインパクトから選ぶとこうなった。

 

「塔は、駒沢オリンピック記念塔、駒沢給水塔、浅草十二階、通天閣

 

 頭に「駒沢」がつく塔が二つ入っているのは、単に近くにあるからというだけのこと。ほんとうのことを言ってしまうと、近くにあるから否応なく目に入る。だから選んだという、なんともいいかげんというか、個人的、主観的なノリで決めました。

 

それぞれの塔についての説明は次回に続くということで。

 

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